前橋地方裁判所高崎支部 昭和48年(ワ)82号 判決 1976年3月30日
原告
蜂須賀幾雄
ほか二名
被告
依田登
ほか一名
主文
一 被告らは各自、原告蜂須賀幾雄に対し五一五万一六〇〇円、同蜂須賀ゆき子に対し四一七万一六〇〇円、同蜂須賀仁に対し一〇〇万円およびこれらに対する昭和四七年六月二四日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
三 仮に執行することができる。
事実
第一申立
(原告)
主文同旨
(被告)
請求棄却、訴訟費用原告ら負担
第二主張
一 請求の原因
1 事故
蜂須賀亨(男子・九才六ケ月)(以下被害者という。)は次の事故により死亡した。
(一) 日時 昭和四七年六月二四日午後二時三〇分頃
(二) 場所 高崎市石原町五二番地の四七地先交差点
(三) 加害車 大型貨物自動車(群一一さ二六号)・被告依田運転
(四) 事故態様
右交差点を西方より北方へ左折すべく進行した加害車が、自転車に乗つて同所を西より東へ直進中の被害者を轢過し、脳挫傷、頭部轢砕等の傷害により即死させた。
2 責任原因
被告依田は、赤信号のため右交差点の手前で停止中、同じく信号待ちのため加害車の脇に所謂運転手の死角に入つて停止していた被害者に気付かず、青信号で左方へ注視を怠つて直ちに左折を開始し同じく直進を開始した被害者の進行を妨げた一方的過失により本件事故を惹起したものであるから民法七〇九条により責任を負う。
被告会社は加害車を保有し、自己の支配内においてその利益のために運行の用に供したもの(具体的には被告依田に貸与していたもの)であるから自賠法三条によつて責任を負う。
3 相続
原告幾雄、同ゆき子は実父母として被害者を相続した。
4 損害
(一) 被害者の逸失利益 一〇三四万三二〇〇円
別紙逸失利益計算書記載のとおり
(二) 慰藉料
(1) 原告幾雄(被害者の実父) 一五〇万円
(2) 原告ゆき子(同実母) 一五〇万円
(3) 原告仁(同実弟) 一〇〇万円
(三) 葬儀費用 三〇万円
原告幾雄が負担した。
(四) 弁護士費用 六八万円
同原告が支払を約した。
(五) 自賠責保険金による損害の填補 五〇〇万円
原告幾雄、同ゆき子が二分の一宛受領した。
(六) よつて原告らの損害額は次のようになる。
(1) 原告幾雄 五一五万一六〇〇円
逸失利益 五一七万一六〇〇円
慰藉料 一五〇万円
葬儀費用 三〇万円
弁護士費用 六八万円
保険金填補 二五〇万円
(2) 原告ゆき子 四一七万一六〇〇円
逸失利益 五一七万一六〇〇円
慰藉料 一五〇万円
保険金填補 二五〇万円
(3) 原告仁 一〇〇万円
二 請求原因の認否
1 請求原因1の事実中被害者の年令は不知、その余は認める。
2 同2の事実は否認する。加害車は被告依田の所有であつて同被告の業務に使用していたものである。すなわち、(一)被告会社は加害車を昭和四五年五月関東いすゞ自動車株式会社から代金三三〇万円、支払方法は頭金八〇万円、残金を毎月五万八七〇〇円の割賦払いとする約で買受けた。(二)被告会社は加害車を運転すべき従業員がいなくなつたので、売却処分を考慮していたところ、被告依田から購入の申入れを受けたので、信用金庫から借入れをして割賦代金残額を完済した上、昭和四六年一〇月一日同被告に対しこれを代金一三〇万円、支払は毎月六万円の割賦払いとする約定で売渡し、即日引渡した。(三)所有名義が被告会社に残つていたとしても所謂所有権留保にすぎない。(四)被告依田は黒岩建材の仕事を加害車持込みで専従的に行ない、被告会社の仕事は全くしていなかつた。(五)以上の次第で被告会社に運行供用者責任はない。
3 同3及び4の事実中、損害の填補は認めるが、その余は不知である。
三 抗弁
被害者には、加害車が先に停車しており、かつ左折の合図をしていたのに気づかず、かりに気づいていたとしても、加害車の前を通り抜けることが可能であると誤り、無理な横断をした過失がある。よつて過失相殺を求める。
第三証拠〔略〕
理由
一 請求原因1(事故)の事実は被害者の年令を除いて争なく、成立に争のない甲第一八号証によれば、右除外事実を認めることができる。
二 被告らの責任について判断する。
1 被告依田の責任
成立に争のない甲第一ないし第一七号証、同被告本人尋問の結果を総合すると、本件事故現場付近の状況は別紙交通事故現場図記載のようであるところ、同被告は加害車(ダンプ、車長六・四米、車幅二・四五米、右ハンドル、最大積載量八トン)に、積載重量を三・二三トン超過する土砂を満載して、北(図面上方)から事故現場交差点に差しかかつたが、対面信号が赤色を表示していたため、左折の便宜を慮つて図面<1>の地点に停車したこと、加害車が道路中央寄りに停車したため、同車左側面と道路左側端との間には約一・六米の間隙があつたところ、被害者は自転車に乗車して右交差点を直進すべく加害車に遅れて同方向から進行し、同じく赤信号で図面<イ>の地点に停車し、自転車からおりて信号待ちしていたこと、信号が青になつたので被害者が自転車に乗つて進行を開始し、次いで加害車が発進左折を開始したのであるが、図面<×>点近辺で加害者の前部バンバー中央ナンバープレート左端付近が被害者の自転車に衝突してこれを転倒させ、加害者右前輪が被害者の頭部を轢過したこと、図面<イ>点付近は<1>点に停止した加害車の運転席から、バツクミラーで充分確認できるところであり、またアンダーミラーによれば加害車前方の路面も最も見えにくい場所であつても車体から〇・八七米までは見ることができ、したがつて路面より高い地点にあるものは更に見える範囲が広がる状態にあつたのであるから、同被告において発進にあたり左側方及び左後方の交通を確かめ、或は発進後も自車直前の交通に注意していれば当然被害者を発見することができ、本件事故を避けることができたのに、同被告はこれを怠り、これら交通に全く注意を払わず、遂に被害者に気づかないまま本件事故を惹起したこと、以上の事実を認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。これによれば同被告に重大な過失があつたことは明らかである。
2 被告会社の責任
成立に争のない甲第一四号証、弁論の全趣旨により成立を認める乙第七号証、被告依田及び被告会社代表者各本人尋問の結果(いずれも後記措信しない部分を除く)によると、被告会社は従来六トン車を使用して砂利、砂の販売業をしていたが、道路が混雑して能率が上らないため、より運搬量の大きい加害者(八トン車)を昭和四五年五月に代金三三〇万円で購入したこと、ところが被告会社の運転手が退社してしまつたため、加害車の運行ができない状態となり被告代表者は困惑していたこと、他方被告依田は個人で運搬業をしていたが営業成績が振わず、同四六年九月頃自動車を引揚げられる破目に陥つたため、以前勤務したことのある被告会社に電話して何か仕事がないかたずねたところ、被告会社代表者から加害車運転手として被告会社に就職するよう勧められたこと、しかし被告依田が給料が安いのに難色を示したため、結局、加害車を同被告が買いとり、これを使つて被告会社の仕事をし、代金を月賦で支払うことの合意が成り、同年一〇月頃、被告会社と被告依田との間に加害車を一三〇万円で売買する旨の契約が成立したこと、被告会社の元帳には、同年一一月二八日八万円、一二月二六日八万円、同四七年一月二五日八万円、同年二月から七月までの各月一〇日に六万円宛、いずれも現金で(ただし六月一〇日の分だけは貸付金として処理されている)被告依田から支払を受けた旨の記載があること、加害車の車体には依然として被告会社の名称が記入されており、加害車の登録上の使用者名義も変更されることなく被告会社となつていること、以上の事実を認めることができる。ところで、右元帳の記載について考えるに、昭和四七年二月から七月まで毎月一〇日に六万円づつきちんと支払いがあつたという記載は、被告依田が被告会社に対して継続的に債権を有し、被告会社のこれに対する支払日が毎月一〇日であり、その支払の際支払額のうちから六万円を差引いて支払つていることを推認させるに充分であり、殊に被告依田が本件事故当日から二一日間身柄を拘束されていた事実(同被告本人尋問の結果)に照らすと、昭和四七年七月一〇日は同被告の拘束期間中に属するから、同日支払つたとされている六万円は現実の支払であり得る道理はなく、被告会社が当日支払うべき債務(被告依田が前月中に被告会社の仕事をした対価であると考えるのが合理的であろう。)のうちから差引いて入金したものと推認されるのであるが、かかる見地に立つて右認定の事実を考察すると、被告会社は本件事故当時加害車を被告依田に売却したが、その代金は自社の仕事を継続的に同被告にやらせたその支払債務から取立てていたことが推認されるところである。被告依田及び被告会社代表者各本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できないし、他に右認定を覆すに足る証拠はない。右の事実に照らすと、被告会社は加害車の使用につき依然強い影響力を有し自己のためにこれが一定の(専属とはいえないまでも)運行をなさしめて営業活動をしていたものと認むべきであるから加害車に対する運行支配及び利益を失つたものとはいえず運行供用者責任を負うべきものであると判断される。
三 請求原因3(相続)の事実は弁論の全趣旨により認める。
四 損害について判断する。
1 (逸失利益)被害者が生存していたならば、満一八才から六三才まで何らかの職につき、収入をあげたものと考えられ、その額は賃金構造基本統計調査報告(労働省―昭和四七年度)第四表の企業規模計、男子労働者学歴新高卒の金額に等しいと推認するのを相当とする。そして生活費を五割としてホフマン式計算方式により計算すると被害者の逸失利益は原告の主張する一〇三四万三二〇〇円を上廻ること計数上明らかであるから、その範囲内における右請求は理由がある。
2 慰藉料は原告幾雄、同ゆき子において各一五〇万円、原告仁(被害者の実兄)において一〇〇万円を相当と認める。
3 (葬儀費用)弁論の全趣旨によれば、原告幾男が被害者の葬儀を行つた事実を認めることができる。このことによる同原告の損害は経験則上三〇万円と認めるべきである。
4 (損害相殺)損害の填補については争がない。
5 弁護士費用中六八万円を被告らが負担すべきである。
五 被告の抗弁について考えるに、本件全証拠によるも被害者に過失相殺の対象となるべき過失があつたことを認めることができない。
六 以上であるから原告らの請求はすべて理由がある。よつてこれを認容し、民訴法八九条、九三条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 清水悠爾)
逸失利益計算書
<省略>